ウッドデッキ中庭奮戦記
ある年の真夏である。
身を崩した御庭番である拙者は身分を偽り、とある川越街道沿いの旅籠風宿場の番頭兼按摩師に化けて過ごすという日々であった。
宿主は言った。
「番頭頭よ、そなたは体術堪能にして、人足土木の習いもあるそう、この広い中庭に、木製の屋根付き張り出し縁側を造ってはくれまいか、印度からのの客人を迎えるためなのじゃ…」
客間から雪見障子越しに見渡すその中庭はざっと150㎡はある、およそ家一軒分のお化け庭である。
ざわ、と武者震いを感じる。
七年前に乗り込んで開墾した日の苦労を思い出した。
乗りかかった言いつけ。
降りる選択もなし。
都合、その日より居候するその旅籠の名物的中庭は我が新たな戦場となった。
特に勉強することもなく、経験と勘で独自の中庭を設えていった。
手がかりとして、ひらりと飛び乗った下野上の軒桁に間柱を這わせ、そこから水平に柱材を火打で固定。
4メートルの杉材による四角立方体をうまく組むと足元を基礎固めしてひと段落ついた。
縁側代わりに何年も置かれてあった丈夫な長椅子の勾配をみるに、思ったよりちゃんとしていたのでそのまま構造物土台として使わせてもらうことにした。
むき出しの地面は放置してあって凸凹、季節は真夏だけあり、鬱蒼と奥深い縁の下から隣の巨木から、夕暮れには数えきれない虫を解き放ち降らてくる。
気が付くと見たこともない虫が肩に乗っている。
たまらないので、とりあえず買ってきた根枯らしシートで地面を覆うと著しく体感は涼しげに変わり、大小の虫も設置前より減ってしまったような気にはなった。
渡り廊下を宿主に案内されて客人が歩いてくる。
女按摩師がかいがいしく部屋内に促す。
ふと皆そろって中からこちらを見て、興味深そうに会釈してきた。
拙者忍者だが、とぼけた棟梁みたいな顔を造り「どうも」と返す。
まずはこんな感じで、御庭番のたった一人の戦いは切っておとされたのであった。
次回に続く。